グライド
夜明けの海 2009.3.12
朝5時半。
早朝の波を写真に撮りたくて、海に出た。
暗闇。
ボードを浜辺に置いて砂浜に座り込む。勢いよく打ち寄せた波が足を濡らす。水はそんなには冷たくない。「もう春なのかな」などと考えているうちに、徐々に空が白み出す。
まだだいぶ暗いが、思い切ってボードに飛び乗った。誰もいない黒い海をパドリングで進む。静寂と孤独感が心地よい。ここで溺れたら誰にも知られずに死んでいくのかな、などと変なことを考えながら沖のポイントへと進む。
波はそんなに大きくなかった。小さなうねりがいくつも押し寄せる。ボードにまたがり、今やってきた岸のほうに振り返る。まだ街灯がオレンジ色に輝いている。さっそく防水カメラをとりだしそれを写し撮る。人が眠りについている街。そこは生き物の息遣いが聞こえる場所だ。
ふと、なにかの気配を感じ、あたりを見渡す。なにかがそばにいる。前方3mくらい・・・それはこのポイントに昔から住み着いている海亀だった。目がうちの犬にそっくりで、なんとも愛嬌がある。「ひさしぶり」と挨拶をすると、こちらをチラっと見た気がした。
しばらくすると比較的大きなうねりがやってきた。暗さのせいで近くに来るまで存在に気づかなかった。あわててカメラをラッシュガードの背中側に押し込み、方向を変える。かなり力をいれてパドリングしなければ乗れそうにない波だ。それでも『薄闇の中で乗ってみたい』という気持ちは強く、全力で漕ぎだす。
加速した・・・乗れる・・・
ぐっと背をそらし・・・
波に立つ。
夜明けの海。
いつもとは違う黒い流体。
冷たい風。
心地よい滑走。


